<ことば・文字・数>基礎学習の教材作りと学習法
 進一鷹著 明治図書刊

(あとがきより)
 初期学習、概念形成の学習、記号操作の学習と順を追って学習することの大切さを筆者に教えてくれたのは、重複障害教育研究所元理事長の故中島昭美先生です。中島先生は、故梅津八三先生(東京大学名誉教授)とともに、昭和20年代に日本で最初に盲聾児の教育に取り組んだ先生です。盲聾児とのかかわりの中でこれらの学習の内容や方法について考えられたようです。その後、先生は盲知的障害、重度・重複障害児と研究の対象を広げていかれました。筆者も多少研究対象には違いがありますが、学生たちと研究室の教育相談、重症児施設、熊本大学教育学部附属養護学校「ことば・かずの教室(親の会主催)」などで教育実践を積み重ねてまいりました。重度・重複障害児については、平成8年に『重度・重複障害児の発達援助技法の開発』(風間書房)という著書にまとめました。今回、知的障害児、自閉症児、学習障害児などを対象とする著書をまとめることができました。これらの著書の内容は、子どもたちとのかかわりの中で学んだものです。本当に子どもたちに感謝しています。

 進一鷹先生は、1981年に熊本大学に赴任されてから、熊本の実践現場の先生方とともに熊本重複障害教育研究会を結成し、手作りの教材を通した子どもたちとのかかわり合いを深めてこられました。この本は、そうした長い地道な取り組みの成果がたくさん詰め込まれた本です。
 故中島昭美先生も、夏に開催される研究大会に毎年のように参加され、その時々の最新のお考えを披瀝され、熊本の先生方の実践について様々な助言をされるとともに、実践の現場にも何度も足を運ばれ、熊本の先生方と共に歩みを続けてこられました。
 この本の中では、中島先生が長年にわたって提唱されてきた考え方が、非常に具体的なかたちをとってわかりやすく示されています。障害のある子どもたちの教育に真摯に向かい合おうとしている先生方にとって、この本はたくさんの手がりやヒントを与えてくれるにちがいありません。
 熊本の障害児学校では、熊本の先生方の息の長い地道な取り組みのおかげで、手作りの教材を通した個別的な学習を進める方法は、子どもたちと向かい合うための大切な方法として、現在確固とした位置を占めています。様々な考え方があることは当然のことですが、少なくとも、誰もがその存在を知っており、その気になれば、誰でも取り組むことができるという状況は、全国的にもまれなことです。それは、何よりも、子どもたちにとって幸せなことに違いありません。

『<ことば・文字・数>基礎学習の教材づくりと学習法』のご紹介